アルフレッド・ヒッチコック監督の映画


アルフレッド・ヒッチコック監督の映画は、この数年急にDVD化が進んだおかげで、だいたい見られるようになった。以前のようにBSで放送されるのをチェックしてVHSに録画して、という苦労はなくなってきた。しかし、どれがどんなだったか分からなくなってきたので、最近見直し始めているところです。

保有映像リスト

The Pleasure Garden (快楽の園)   The Lodger (下宿人) Downhill (下り坂)
Easy Virture (ふしだらな女) The Ring (リング) The Farmer's Wife (農夫の妻) Champagne (シャンパーニュ)
The Manxman (マンクスマン) Blackmail (ゆすり) Juno and The Paycock (ジュノーと孔雀) Murder! (殺人)
Skin Game (スキン・ゲーム) Rich and Strange (おかしな成金夫婦) Number Seventeen (第17番)  
The Man Who Knew Too Much (暗殺者の家) The 39 Steps (三十九夜) The Secret Agent (間諜最後の日) Sabotage (サボタージュ)
Young and Innocent (第三逃亡者) The Lady Vanishes (バルカン超特急) Jamaica Inn (巌窟の野獣) Rebecca (レベッカ)
Foreign Correspondent (海外特派員) Mr. and Mrs. Smith (スミス夫妻) Suspicion (断崖) Sabotuer (逃走迷路)
Shadow of a Doubt (疑惑の影) Lifeboat (救命艇) Spellbound (白い恐怖) Notorious (汚名)
The Paradin Case (パラダイン夫人の恋) The Rope (ロープ) Under Capricorn (山羊座のもとで) Stage Fright (舞台恐怖症)
Strangers on a Train (見知らぬ乗客) I Confess (私は告白する) Dial M for Murder (ダイヤルMを廻せ) Rear Window (裏窓)
To Catch a Thief (泥棒成金) The Trouble with Harry (ハリーの災難) The Man Who Knew Too Much (知りすぎていた男) The Wong Man (間違えられた男)
Vertigo (めまい) North by Northwest (北北西に進路を取れ) Psycho (サイコ) The Birds (鳥)
Marnie (マーニー) Torn Curtain (引き裂かれたカーテン) Topaz (トパーズ) Frenzy (フレンジー)
Family Plot (ファミリープロット)  短編 Bon Voyage (闇の逃避行) Aventure Malgache (マダガスカルの冒険)


・The Pleasure Garden (快楽の園)  1925 モノクロ・無声
原作:Oliver Sandys
出演:
Virginia Valli、Carmelita Geraghty
あらすじ:レビューが大人気のナイトクラブ「快楽の園」のダンサー:パッツィ(Valli)は、田舎から出てきて全財産をスリに盗まれて困っているジルに出会い、下宿に連れて行く。ジルは、ダンサー志望で、「快楽の園」で、自慢のダンスを見せる。これが、興業側にうけて、見事採用に。パッツィは自分のことのように喜ぶ。ジルが衣装合わせで留守の間に、ジルの婚約者ヒューが下宿を訪ねてくる。2年間南国の農場に赴任することとなったことを伝えに来た。パッツィは、ヒューに対して、ジルに悪い虫が付かないようにみているので安心して海外赴任するよう、約束する。しかし、ジルのダンスは評判で、イワン王子に大いに気に入られる。パッツィの下宿の狭さに耐えられず、ジルは下宿を出てしまい、イワン王子に貢がせるようになる。また、パッツィは、ヒューの同僚のレビット氏と結婚する。新婚旅行で、幸せいっぱいのパッツィに対し、レビット氏はなぜか素っ気ない態度。実は、レビット氏には、南国の農場に秘密があった。<この先:ネタバレ注意>
感想:ヒッチコックの初監督作品。一般に、スリラー・サスペンスは第3作目の「下宿人」からと言われているが、これも、後半のおびえるパッツィの顔などみても、結構スリラーになっている。また、パッツィの飼い犬の登場人物に対する反応や、レビットが海外に旅立つときのパッツィの別れの手を振る様子が、別の人の喜んで振る手に変わっていくシーンなどが印象的だが、こうしたアイディアは、後のヒッチコック監督を十分思わせるところがある。

・The Lodger (下宿人) 1926 モノクロ・無声
原作:Marie Belloc 
出演:
Marie Ault、Arthur Chesny、June、Ivor Novello、Malcolm Keen
あらすじ:ロンドンの人々は火曜日の夜に発生するブロンドを狙った連続殺人におびえていた。ブロンドのファッションモデルのデイジー(June)の家は下宿屋。ある晩、デイジーと恋人の刑事ジョー、デイジーの両親が下宿屋で雑談していると、そこに、帽子、マフラーで顔をつつんで鞄を抱えた男(Novello)が下宿させてくれと現れる。男は、部屋にかけられていたブロンド女性の描かれた絵に対して異様に反応し、それらを撤去させてしまう。下宿屋の主人夫婦は、男を怪しみだす。ある日、ジョーが下宿屋にやってきて、連続殺人事件担当になったので、犯人を挙げたらデイジーと結婚したいと言う。そのとき、下宿部屋でデイジーの叫び声、急いでジョーが駆け込むと、ねずみに怯えたデイジーが男に抱きついていた。ジョーは離れろと怒り狂う。その後も、男は、デイジーに接近しつづける。はたしてこの下宿人は、ブロンド女性を狙う連続殺人犯なのだろうか。<この先:ネタバレ注意>
感想:ヒッチコック監督の3作目、初のスリラーもの。ノヴェロの暗く怪しい目つきが不気味。所有するDVDの映像は暗いので結構みにくいのだが、かえって、おどろおどろしい映像となっている。サイレント映画であるが、一気に見てしまうスリラー映画。


・Downhill (下り坂) 1927 モノクロ・無声
 Ivor Novello 
出演:
Ivor Novello
あらすじ:ケンブリッジの名門校でラグビーに打ち込んでいた主人公Roddyは、盗みの疑いをかけられる。本当は、親友がやったこと。しかし、豊かではない親友の立場を思んばかり、親友をかばったばかりに退学処分となってしまう。Roddyは、親友との間ではこのことは秘密にしておくと約束。Roddyは、豊かな実家に戻るが、父親に退学させられたことがバレる。弁解するのだが、父親に”嘘つき”と呼ばれ、Roddyはいたたまれず家を飛び出る。その後、Roddyは、ある劇団で下働きをすることになるのだが、そこのスター女優に恋心を抱く。たまたま、Roddyは、名付け親からの遺産が入り、羽振りが良くなり、その女優と結婚。しかし、妻に、遺産を好き勝手に使われてしまう。Roddyは、そのことを問いつめるのだが、結局、財産を失ってRoddyは、女優の妻と分かれ、劇団も去る羽目に。その後、パリに流れ、キャバレーでホストのような仕事をするようになる。しかし、退廃した仕事に嫌気がさして、さらに流れ流れてマルセイユで病気に。自分は死ぬけれども約束は守ったよと、英国にいる親友に手紙を書く。、<この先:ネタバレ注意>
感想:こんなに自分がボロボロになって、まだ親友との約束を守ったよというのは相当な人格者かそんな自分が大好きな人?本作品の脚本は主人公Roddyを演じているIvor Novelloのペンによるものだから、すくなくとも、Novello氏の理想にはあった人なんでしょう。ところでパリでRoddyに言い寄ってくるマダムは、本当は男???どうみても、男が化粧したような顔だけど。


Easy Virture (ふしだらな女)  1927 モノクロ・無声
出演:イザベル・ジーンズ、ロビン・アーバイン、イアン・ハンター
あらすじ:夫に暴力をふるわれていた妻ラリタ(ジーンズ)は、彼女に同情した若い画家と不倫したとの疑いで訴訟を起こされてしまい、結局敗訴・離婚されてしまう。記者たちは、このスキャンダラスな出来事を書き立てる。傷ついたラリタは、南仏に旅立つ。そこで、英国の名門家(将軍)の息子ジョン(アーバイン)と出会う。ジョンと、ラリタは互いに惹かれ会い結婚し、英国のジョンの屋敷に戻ることに。ラリタはジョンの家族に会う。ジョンの父は、魅力的な女性だとラリタに好感をもつ。一方、母親は、あの女は何者なのかと冷たい仕打ち。ジョンの姉妹も良い顔をせず。母親達は陰でラリタに冷たい仕打ちを続ける。唯一、ジョンと結婚するはずだったサラは、ラリタをかばうのだが。耐えられなくなったラリタは、ジョンに幸せだった南仏に戻りたいとせがむ。しかし、その願いは受け入れられず、引き続き、ジョンの家族達と生活を続ける。そんな日々の中、ラリタは、以前の離婚訴訟での原告弁護士(ハンター)を見かけてショックを受ける。<この先:ネタバレ注意>
感想:ラリタが、結婚した先の家で痛めつけられて、まるでレベッカの様にも思えるのだが、、、よく分からない、この映画の話。


・The Ring (リング)  1927 モノクロ・無声
出演: カール・ブリッソン、リリアン・ホール・デイビス、イアン・ハンター、ゴードン・ハーカー
あらすじ:一人の女性を巡り、結婚指輪(リング)を捧げた男と腕輪(リング)をプレゼントした男の(ボクシング)リング上での戦いの物語。
"One-Round"ジャックと異名を持つジャック・サンダース(ブリッソン)は、カーニバルのボクシング小屋の試合で、チャンピオン・ボブ・コルビー(ハンター)に負けてしまう。小屋の興行主の娘、メイベル(デイビス)はジャックの婚約者だったが、これでは職を失ってしまうと心配に。その晩、ボブはメイベルの前に現れ、昼間の試合で勝った賞金で買った腕輪をプレゼントする。メイベルはボブに心を引かれつつも、ジャックと結婚。ジャックは、ボブの練習パートナーとなるが、ボブはボクシングの番付表のトップ、ジャックは番付表の一番下に小さな文字で掲載されているだけ。一方、メイベルは、ボブの派手な生活に惹かれていく。嫉妬に怒ったジャックは、ボブに挑戦すべく、数多くの相手と戦い、徐々に順位を上げていくのだが。<この先:ネタバレ注意>
感想:このカール・ブリッスンさんは、悲しげな表情、寂しげな表情がうまく、喜んでいるときの表情も、どうも哀れさを感じさせる。妻に浮気されてしまう、かわいそうな役にピッタシ。おまけに、あまり、強そうに見えない。戦っているときも、ジャックは上体が引けているし。それに、妻にこれだけ浮気されて、それを攻めれば逆ギレされてしまうし、なんなんでしょうね、という感じもする。しかし、魅力的な映画ではある。


The Farmer's Wife (農夫の妻) 1928 モノクロ・無声
原作:Eden Phillpots
出演:ジェームソン・トーマス、リリアン・ホール・デイビス、ゴードン・ハーカー
あらすじ:大農場の主人サミュエル・スゥイートランド(トーマス)は、妻に先立たれる。家政婦のミンタ(デイビス)は、下男のアッシュ(ハーカー)とともに家の切り盛りをしている。サミュエルの娘が結婚してしまうと、ひとりぼっちになったサミュエルは、かつて妻が座っていた椅子を見つめて、再婚を思い立つ。ミンタに、再婚相手のリストを書かせ、順に、アプローチを開始する。
感想:ドタバタ喜劇っぽく、予想していたよりはおもしろかった。とにかく、サミュエルの独善的なところが、なんとも困ったもの。マリーさんの発作、バカウケ〜〜じゃないか。<この先:ネタバレ注意>


Champagne (シャンパーニュ) 1928 モノクロ・無声
原作:Walter C. Mycroft
出演:Betty Balfour、Gordon Harker、Ferdinand Von Alten、Jean Bradin
あらすじ:ウォール街の億万長者(ハーカー)の娘(バルファー)は、ヨーロッパに向かう船上の恋人を追いかけて、父の飛行機を勝手に持ち出して海に不時着し、救命艇を出してもらって乗船する。父は怒り心頭。船上で娘に注目したのは、恋人の他にも別の紳士(Alten)がいた。ひどく揺れる船の中で、よろめきながら食堂のテーブルに座った娘のところに、紳士が近づく。この紳士と娘が、にこやかに会話しているところに、父から、「あの”恋人”は銀行口座が目当てなんだ」というメッセージが届く。娘は、船酔いして寝ている恋人の部屋に様子を見に行くと、恋人は、船長に結婚式の手配を依頼したと娘に伝える。娘は、「父も恋人も、金で何でもできると思っているのか」と怒ってしまう。パリについても恋人とは会わずに、娘は贅沢三昧。ドレスを買い込み、パーティーを。そこに、恋人が来るが、「1週間も私をほったらかしにして」とまた怒る。このパーティの場に、ニューヨークからはるばる父がやってきて、破産したと娘に伝える。<この先:ネタバレ注意>
感想:シャンペングラスの底を通して景色を映すシーンが知られている。我が儘娘と父の愛情を、コメディータッチに表している映画。ギャグが頻繁に出てくる。たとえば、娘が駆け落ちしたのを怒って、社長の父が、つい何度も机の上の従業員呼び出しブザーのボタンをさわってしまい、そのたびに、従業員が大勢駆けつけてくるとか、揺れる船で、みんながよろけているところを子供だけがまっすぐ突っ走れるとか、キャバレーで正装をした紳士に花を配る仕事の娘が正装している音楽隊にも配ってしまうとか。こうした軽いタッチのギャグは、好感が持てる。全体として、雰囲気の良い映画。


・The Manxman (マンクスマン) 1929  モノクロ・無声
原作:Sir Hall Caine
出演:カール・ブリッソン、マルコム・キーン、アニー・オンドラ、ランドル・アイルトン
あらすじ:マン島の貧しい漁師ピート(ブリッソン)は、代々裁判所長となる名門家系の息子フィリップ(キーン)と竹馬の友。フィリップが起草した副総督あて陳情書に漁師仲間が署名するため、シーザーの居酒屋へ行く。そこには、シーザーの娘、可憐なケイト(オンドラ)が。ピートはケイトと結婚したいと思っているが、父のシーザーは貧乏を理由に断る。その晩、ピートは、ケイトに求婚し、外国で稼いでくるまで待っていてほしいと頼み、なんとか約束させる。外国に出稼ぎに行くにあたり、ピートは、フィリップにケイトの面倒を見てほしいと頼む。フィリップは、友人との約束なので、ケイトと会うようになるが、だんだん、両者は惹かれ会うように。そんな頃、ピートが南アで死んだとの連絡が。<この先:ネタバレ注意>
感想:カール・ブリッソンさんは、さすが、無声映画の俳優。目で、表情で、全身で、喜びを表している。それが大げさだけに、見ている方からすると、ますます哀れに。アニー・オンドラは、とても可憐で美しい女優。後に、ヒッチコック監督は、美人女優を起用しまくるが、そうした大物女優に全く負けない美しさ。映画自体は、美しいものの、愛の悲劇の物語。アニー・オンドラとカール・ブリッソンを見るためだけでも十分価値あり。


Blackmail (ゆすり) 1929 モノクロ・トーキー
原作:チャールズ・ベネット
出演:アニー・オンドラ、ジョン・ロングデン、ドナルド・カルスロップ、シリル・リチャード
あらすじ:タバコ屋の娘アリス・ホワイト(オンドラ)は、刑事フランク・ウエーバー(ロングデン)の恋人。フランクがデートの約束の時間に遅れたのでアリスは不機嫌。レストランで、二人は次に映画に行くかどうかでもめる。怒ってフランク一人で店を出てしまう。残ったアリスは、レストランに来た画家(リチャード)に誘われ、アリスの自宅付近にある画家のアパートの部屋に入ってしまう。画家は、アリスをモデルに描くのでモデルの衣装に着替えないかという。衣装の背中のジッパーをあげるのを手伝う画家は、アリスに突然キスしようとする。怒ったアリスは帰るといって、自分の服に着替えようとするが、画家は、アリスの服を放り投げてしまう。下着姿のまま、アリスはそれを取りに行かざるを得ず、画家の前をとおるが、そこで画家に抱きかかえられてしまう。アリスは、画家から逃れようと、カーテンの後ろで揉み合う。そのうち、アリスは、近くのテーブルにあったパン切りナイフを手にして、画家を刺し殺してしまう。画家の部屋を出たアリスは、途方に暮れて、ロンドンの街中を一晩中歩き回ったあげく、翌朝、タバコ屋の自宅に戻る。タバコ屋店では、客が、近所の殺人事件の話題ででもちきり。そこに、あやしい男トレーシー(カルスロップ)が強請りに現れる。<この先:ネタバレ注意>
感想:アニー・オンドラは本作品でもきれいです。映画は、ぐるぐる回る円形のものが大写しされているところから始まるが、これが実はパトカーのタイヤ・ホイール。観客になんだろうと思わせて始まるやり方は、いかにもヒッチコック(ふしだらな女で、裁判官のかつらの大写しから始まるのに似ている。)。また、アリスが一晩中途方に暮れてロンドンの街中をさまようシーンで、ネオンがナイフを持った手の図柄に変わってしまったり、タバコ屋の客がナイフ・ナイフ・ナイフと言い続けて、アリスが「ナイフ!」と叫んでしまうシーンなど、印象的。タバコ屋の客が、「煉瓦で頭を殴るのならば英国風情があるけれど、ナイフで人を刺すのは恐ろしい」と言っている。これから推測すると、当時の英国ではナイフで刺すというのは特に恐ろしい殺人の方法だったのか?山中貞雄監督の丹下左膳百万両の壺で、左膳が悪党を切りまくるシーンが残酷だということでGHQにカットされてしまったという話を思い出した。欧米では、刃物は鉄砲などに比べて残酷な手段ということか。だから、ヒッチコック監督は、刃物を好む?この映画でも、「ダイヤルMをまわせ」のはさみがきらりと光る(不気味さを出すのにヒッチコック監督はこだわったらしい。)のとと同じように、画家を刺してしまった後のナイフがきらりと光っている。本作の結末はなんとなく釈然としない。


Juno And The Paycock  (ジュノーと孔雀)  1930年 モノクロ・トーキー
原作:ショーン・オケーシー
出演:セーラ・オールグッド、エドワード・チャップマン、シドニー・モーガン、バリー・フィッツジェラルド、メイア・オニール
あらすじ:アイルランドでは、共和派と独立派が争っていた。ダブリンのボイルは酒好きで仕事についておらず、妻ジュノーの働きで一家4人で生活していた。妻の目を盗んでは、上の階の住人と酒を飲んでいたり。長男は、共和派にのめり込んで、争いに巻き込まれて片腕を失っていた。そんなある日、娘メアリーの恋人で弁護士のチャールズが、ボイル家の親戚から2000ポンドの遺産を相続することになったと聞かされる。急に、遺産が転げ込むことになったボイル家では、新しい服を新調し、家具をそろえ、蓄音機も月賦で買うなど羽振りが良くなる。しかし、チャールズがイギリスに突然消えてしまう。<この先:ネタバレ注意>
感想:場面の切り替わりで機関銃の効果音が入るのに驚かされるというか印象的。最初はコミカルな話で展開するのかなと思うのだが、ジョニーの表情の暗さは何なんだ、、、と思っているうちに、どんどん暗いストーリー展開。でも、当時の社会的価値観が分からないので、その深刻さが分からないのが残念。


Murder!  (殺人!)  1930年 モノクロ・トーキー
原作:"Enter Sir John" Clemence Dane and Helen Simpson
出演:Herbert Marshall、Nora Baring、Phyllis Konstam、Edward Chapman、Mils Mander、Esme Percy、Donald Calthrop
あらすじ:深夜、叫び声でマーカム夫婦など近所の者が起こされる。近所で、女優のエドナが火かき棒で殴られて殺されたのだ。そばには、女優のダイアナ(Baring)が。ダイアナの足下には血糊の付いた火かき棒が。状況証拠から、ダイアナは逮捕され、裁判にかけられる。原告は、二人の女優の関係が悪化しており、飲み過ぎで口論の結果、殺してしまったと主張。陪審員による議論の結果、ダイアナは有罪で死刑の判決。陪審員の一人であるサー・ジョン・メニエ(Marchall)は、彼女の無罪を信じて事件の真相追求に乗り出す。ジョンは、マーカム夫妻を調査のために雇い入れて、殺人現場の調査から開始する。次に、収監されているダイアナとも面談し、彼女が沈黙を守る理由から、犯人に繋がるヒントを得る。そして、その犯人を追いつめるための策を練るのだが。
感想:この映画は、当時の英国の社会的価値観などを知らないと分からない。だから、自分にはわかりにくいところ満載。ストーリーについて行くのがちょいつらいので、つい、映像や演技を見てしまう。まず、町並みがとても中世的な建物で驚いてしまった。ロンドンとは違う。また、陪審員の会議で、ジョンが有罪に対する疑問を述べるたびに、他の陪審員が反論していく掛け合いのところはまるでミュージカル。さらに、絞首刑台の影を効果的に用いたり。もともとサイレントだったのか、会話がどんどん進行するのに無音の感じがなんとも”まったり”でいい。<この先:ネタバレ注意>


The Skin Game  (スキン・ゲーム)  1931 モノクロ・トーキー
原作:John Galsworthy
出演: C.V.France、Helen Haye、Jil Esmond、Edmund Gwenn、John Longdman、Phyllis Konstam、Frank Lawton、Edward Chpman
あらすじ:ヒルクリスツ家の代々の土地を購入した成金事業者ホーンブロア氏(Gwenn)は、次に、ヒルクリスツ家のセンチュリー草原を手に入れて工場を建てる計画。労働者の家を建てるために、すでに購入していた土地に住んでいる住民を追い出しにかかる。ヒルクリスツ氏(France)は、住民を住まわせるとの約束を違反するものだと、ホーンブロア氏を非難。しかし、ホーンブロア氏は事業を何も分かっていないではないかと、ヒルクリスツ氏の意見を無視。それでは騙合い(スキン・ゲーム)ではないかとヒルクリスツ氏は言う。センチュリー草原の競りに参加するため、ヒルクリスツ家とホーンブロア家は、競りの会場に来る。競りの会場に入る際、ホーンブロア家の嫁クロエ(Konstam)に対するヒルクリスツ夫人(Haye)の態度が気に入らないなどと、ホーンブロア氏は、ヒルクリスツ氏に対する仕返しを誓う。
感想:最初は些細なことから始まるが、人は、争い出すと最後は騙合いとなって互いに傷つけあってしまうという、深〜いお話。スリラーではない。このストーリーは、やはり、当時の英国人のモラルや考え方をしらないと、ピンと来ないかも。manxmanなどを見ていれば、そこそこ納得?競りのシーンはかなり緊張感を持っている。こうした競りのシーンは、後のスリラー・サスペンスモノ(たとえば007/オクトパシー)などで登場するが、その草分け的存在かしら?その後のどろどろした展開はネタバレになるので書きません。


Rich and Strange  (おかしな成金夫婦)  1932 モノクロ・トーキー
原作:Dale Collins
出演:Henry Kendall、Joan Barry、Percy Marmont、Betty Amann、Elsie Randolph
あらすじ:単調な会社と家との行き来の毎日に嫌気がさしてきたフレッド。妻エミリーに向かって世界旅行をしたいとぼやいていると、そこに叔父から思いがけない世界旅行に行くための資金が送金されてくる。二人は、喜び勇んでドーバー海峡を渡るはずが、フレッドは船酔い。なんとかパリに到着し、劇場に行ったり、エッフェル塔に行ったりと観光旅行。さらに、マルセイユから豪華大型客船にのってシンガポールに向かう。が、また、フレッドは船酔い。一人残されたエミリーに、ダンディーなゴードン中佐が接近。一方、船酔いから立ち直ったフレッドには、王女が近づく。フレッド・エミリー夫婦の仲はぎくしゃくとして。さらに二人にとんでもないハプニングが、、、
感想:後に、ヒッチコック監督は米国でスクリューボールコメディ(スミス夫妻)を撮るが、これは、ブラックジョークたっぷりの恋愛コメディ。そこそこ笑ってしまう。各地でロケを敢行した映画とのこと。パリ、マルセイユ、中東、シンガポールなど出てくる。きっと、当時の人々は、この映画をみて海外旅行気分を味わえた?ことでしょう。今見ても、旅行気分で、結構楽しめました。ところで、この映画、まだ、字幕を多様しているなど、サイレント映画の名残がたくさん見える(字幕の他は、たとえば、冒頭の列車の中でのギャグの動きやフレッドの表情など)。<この先:ネタバレ注意>


Number Seventeen (第17番) 1932  モノクロ
出演:Leon M. Lion,Anne Grey,John Stuart,,Donald Calthrop,Barry Jones,Ann Casson,Henry Caine,Garry Marsh
あらすじ:男−フォーサイス(Stuart)が、売り出し中の空き家に怪しい光を見つけ、そっと中に入る。そこは螺旋状の階段が3階まで続く。暗い建物の中をマッチの火を頼りに進むと、3階で怪しいろうそくの光。上をみると、壁に大きな手の影が映る。そのとき、列車の轟音に驚き、3階から浮浪者−ベン(Lion)が階段を落ちてくる。男は、上で何をしてたのかと浮浪者に訪ねる。浮浪者は、家も金もないため、うろうろしていたと。壁に映った影は、3階で倒れている男の手だった。ベンは殺していないと否定する。その後、屋根の上で足音がして、女性が落ちてくる。彼女が言うには、彼女は隣人で、彼女の父が、部屋からいなくなり、窓が開いていたので、そこからこの空き家にたどってきたとのこと。彼女は、父あて「スフォルクの首飾りをもって12:30に敵方が逃げるので17番を見張れ」というバートン刑事からの電報を持っていた。フォーサイスが建物の番号を調べると、この空き家は17番地。12:30まであと30分。そのとき、空き家に、更なる男女(ブラントとノラ)の訪問者が。2人に続き、さらに、ブラントの甥を名乗る男(Calthrop)も割り込んでくる。新たな3人は建物の上に上ろうとするが、フォーサイスが、死体のある3階に登らないよう引き留める。しかし、3階にいたベンは、かまわないので上ってこいと声をかける。実は、死体は消えていた。<この先:ネタバレ注意>
感想:映画は、ベンを演ずるLeon M. Lionがプロデュースかつ主演。ベンが、間抜けで、いい味だしている。映画のキャストのリストでは、俳優の名前のみ表示。何の役かでていない。映画を見ていると、次々、人が登場して、1回見ただけでは、誰がなんなのか分からない。というのも、それがこの映画のポイントの一つ。後半は、汽車とバスの息詰まる大チェイス、のはずだが、実写、スタジオ、ミニチュア模型を駆使して特撮で追跡劇を構成しており、特に、ミニチュアによる追跡シーンはまるでトーマスとバーディの追いかけっこのよう。サスペンスとアクションとユーモアが適度にミックスされた1932年の作品としてはOK。とにかく1回みただけでは、だれが何なのか、詳細には分かりにくい。言い換えると何度も見られる作品。


・The Man Who Knew Too Much (暗殺者の家) 1934 モノクロ
出演:Leslie Banks, Edna Best, Peter RLorre
あらすじ:クレー選手のジルと夫のボブ・ローレンス、娘ベティは、冬季スポーツ大会に参加するためサンモリッツに出かけていた。大会最後の晩、ジルは、スキージャンプ選手ルイとダンスをしていたが、ルイは射殺されてしまう。死に際に、ルイは、ジルに、自分の部屋の鍵を渡して、ブラシを英国領事館のギルバートに渡してくれと頼む。ジルにこのことを伝えられ、ボブはルイの部屋に入り、髭剃りブラシの中からメモを発見。そこに警察がやってきて、ボブとジルは事情聴取されることに。しかし、「何も口外するな、さもなくば娘の命がない」との脅迫メモがローレンス夫妻に届き、二人は何も話さなかった。ロンドンに戻り、再度、警察や情報員であるギルバートから事情を聴かれるが、その場に再度忠告電話が入り、二人は何も話さず。警察及びギルバートを帰した後、ボブと、ジルの弟のクライブは、ベティを探しに、ブラシの中から発見したメモをヒントに、調査に出かける。<この先:ネタバレ注意>
感想:この映画で成功したヒッチコック監督は、その後、ほとんどスリラー/サスペンス作品ばかりを監督するようになったとのことで重要な作品。リメイクの「知りすぎていた男」はエンタテインメント作品である一方、オリジナルの本作品は、よりハードな印象。


・The 39 Steps (三十九夜) 1935 モノクロ
原作:ジョン・バカン 
出演:ロバート・ドーナット/マデリン・キャロル
あらすじ:劇場で、なんでも記憶するMr.メモリーが、百科事典のように客からの質問に何でも答える芸をしているところで銃声が。混乱の中、カナダからきたハーネイ(ドーナット)は、見知らぬ女性とともに逃げ出して、2人で、自分のアパートにと戻る。この女性は、英国の機密情報が海外に持ち出されるという情報をつかんでいるスパイだった。翌朝、その女性スパイが殺され、ハーネイは殺人の嫌疑をかけられる。ハーネイは、窮地から脱すべく、謎を追究して、女性スパイが持っていた地図でマークされたスコットランドのある地点に向かう。しかし、スコットランドに向かう列車の中で、ハーネイは警官に追われてしまう。咄嗟に、コンパートメントに飛び込み、そこに乗っていたパメラ(キャロル)にキスをして恋人同士の振りをしようと。しかし、パメラから、警察官に不審者と告げられてしまう。ハーネイは、鉄橋の上で急停車した列車から飛び出す。その後、田舎家に宿泊させてもらうが、そこにも追っ手が。<この先:ネタバレ注意>
感想:この映画でコアとなる機密情報を国外に持ち出す手段は、今の時代には考えられませんね。マデリン・キャロルと手錠でつながれてロバート・ドーナットが追っ手から逃げていく途中、ホテルで一夜を明かそうというシーンでは、マデリン・キャロルのストッキングの脱ぎ方とかが、魅力的かつユーモラス。初期の巻き込まれ型作品でした。とはいっても、なんで39stepsで、それがなんで「39夜」なのか疑問。


・Secret Agent(間諜最後の日) 1936 モノクロ
原作:サマセット・モーム
出演:ジョン・ギールガット、マデリン・キャロル、ピーター・ローレ、ロバート・ヤング、パーシー・マーモント
あらすじ:1916年、第一次世界大戦前夜、作家で軍人のブロディ(ギールガット)は死亡を偽装して、上官”R”の命を受けて、アシェンデンを名乗ってスイスに潜入。ドイツのスパイが、コンスタンティノープルを経由して中東と手を組むのを阻止するのが目的。協力者として、プロの殺し屋「将軍」(ローレ)が付けられる。スイスに乗り込むと、そこには、「妻」のエルサ(キャロル)がすでに到着していた。これも偽装の一環。ホテルの寝室に、マーヴィン(ヤング)が、エルサを口説こうとしていたところであった。マーヴィンを追い出し、ブロディとエルサ、さらに将軍が打ち合わせて、まずは二重スパイで英国に寝返った男と接触すべく、ランケンタールの教会に出向く。<この先:ネタバレ注意>その後、ランケンタールで得た証拠をもとに、敵方のスパイを捜し求めて、ブロディと将軍は、チョコレート工場などに潜入したりする。
感想:ブロディと将軍の奇妙な取り合わせがコミカル。映画の展開として、カジノあり、登山あり、アクションありと、後の007などのスパイ映画の原型を見せてくれる。かなりおもしろく楽しめる作品だった。


・Sabotage (サボタージュ) 1936 モノクロ
原作:Joseph Conrad
出演:シルヴィア・シドニー、オスカー・ホモルカ、ジョン・ローダー
あらすじ:破壊工作活動のため、ロンドンが大停電に。ビジュー映画館は上映を続けられなくなり、客が返金を求め大騒ぎ。ヴァーロック夫人は、映画館経営者の夫を見つけることができず、対応に困ってしまう。ヴァーロック夫人に好意を持っていた隣の八百屋に勤めるテッドは、返金をあきらめるよう、客の説得を試みる。一方、ヴァーロック氏は、金で破壊工作活動を請け負っていたのだが、こっそり映画館に戻り、夫人に返金を認める。その翌日、破壊工作活動の指揮者は、ヴァーロック氏を呼び出し、単に停電では意味をなさないので、市長就任披露パレードで爆破事件を起こすよう、指定するペットショップで、時限爆弾を受け取り、ピカデリーサーカスに持って行くようにと指示する。ヴァーロック氏は死人が出ることに躊躇するのだが、結局、指揮者の言うなりに。さて、爆破事件を起こす当日、ヴァーロック氏は警察に見張られてしまうため、時限爆弾を持ち出すことができない。そのため、ヴァーロック夫人の弟のスティーブ少年に時限爆弾と映画フィルムをまとめて荷物として渡し、ピカデリーサーカスまで、寄り道せずに届けるよう頼む。少年は、時限爆弾が仕掛けられていることを知らずに、預かった荷物を持って出かけるが、途中で、見せ物屋につかまったり、バスが渋滞に巻き込まれたりと、刻々と時間が過ぎていく。
感想:
<この先:ネタバレ注意>


・The Lady Vanishes(バルカン超特急) 1938 モノクロ
出演:Margaret Lockwood、Michael Redgrave、Paul Lukas、Dame May Whitty
あらすじ:戦争直前、東欧の国で国際列車が雪崩のために立ち往生。英国のクリケットの試合を心配する2人の英国紳士が登場し、田舎の駅前ホテルのメイド部屋に、一晩、宿泊せざるを得ない状況になる。そのホテルには、英国に帰国して貴族と結婚予定のアイリス・ヘンダーソン(Lockwood)、他人の迷惑を顧みずクラリネットを吹きまくっているギルバート(Redgrave)、曰くありげな男女二人連れ、6年間その田舎町で音楽教師をしてきた中年女性フロイなどが泊まっていた。その晩、フロイは、窓辺で、流しの歌手の歌に聴き惚れているが、歌が終わったところで人知れずその歌手は殺されてしまう。翌朝、列車が普及し、アイリスは列車に乗ろうとするが、駅舎の2階から落下してきたものが頭に当たってしまう。たまたま、その場に居合わせたフロイに助けられて、列車に乗る。気分直しに、アイリスとフロイは食堂車に行き、フロイの持参しているハーブティーを飲む。その後、客車の席にアイリスとフロイは戻り、アイリスは眠ってしまう。目覚めると、フロイが居なくなっている。隣の席に座っていた乗客達に、連れはどうしているか聴くと、その様な客は居なかったと答えが返ってくる。アイリスは、フロイを探し回るが、他の客達も、みな、そのような中年女性は居なかったと答えるばかり。そこに、医師のハルツ博士が、手術を控えた患者とともに列車に乗り込んでくる。ハルツ博士は、アイリスの話を聞き、おそらく頭を打ったせいであろうと言うが、アイリスは納得しない。同じ列車に乗り合わせたギルバートとともに、列車内にフロイが居ないか探し回るが。。。<この先ネタバレ注意>
感想:所持するDVDの背表紙には「見事なる映画の教科書、ヒッチコックのオリジナル」とある。以前、夜中に何となく見ていたのだが、今回見直してみたら、まさにそのとおりで、非常におもしろい。ユーモア、謎、アクション、スリルが見事にマッチしている。


Jamaica Inn (巌窟の野獣)  1939 モノクロ
原作:ダフネ・フュモーリア
出演:チャールズ・ロートン、モーリン・オハラ、レスリー・バンクス、エムリン・ウイリアムス、ロバート・ニュートン、ホーレス・ホッジズ、マリー・ネイ
あらすじ:19世紀初頭、イギリス南西部コーンウォールには、灯台の火を消してわざと航行する船を難破させ、乗員を皆殺しにして積み荷を強奪する強盗団がはびこっていた。この強盗団の首領が、旅籠ジャマイカ・インの主ジェス(バンクス)。その妻ペイシャンス(ネイ)を頼って、両親を失った姪のメアリー(オハラ)が訪ねようとする。メアリーの乗った駅馬車はジャマイカ・インの辺りを恐れてメアリーを領主のベンガラン卿(ロートン)邸の近くで下ろす。メアリーはベンガラン卿に伴われてジャマイカ・インにたどり着く。そして、ジャマイカ・インの2階の部屋に入るが、階下が騒がしい。階下では、強盗団が、分け前が少ない、だれがくすねたのかと争っていた。そして、新入りのジェム(ニュートン)が疑われて、ロープでつるされてしまう。メアリーは、殺されかかるジェムを助けて共に逃げ出し、ベンガラン卿に事情をつげに行くが。
感想:最初にこの映画をみたのは、米国DELTA ENTERTAINMENT社版DVD。しかし、この版は、途中のフィルム1本分が欠けていて、話が飛んでおり、ストーリーを理解しがたかった。なので、(株)アイ・ヴィーシー版を入手しなおしてようやく理解できた。強盗団、そして黒幕と、メアリー等の追いつ追われつのサスペンスものだが、時代劇でもある。なんといっても、チャールズ・ロートンのとぼけた眉毛とメアリーに対する異常な言動が見物。あとは、デイブ・スペクターみたいなジェムの活躍も、かっこよいのか間抜けなのか。。。何度か見ているうちに、そこそこおもしろく見られるようになった。

・Rebecca (レベッカ) 1940 モノクロ
原作:Daphne Du Maurier
出演:Laurence Olivier、Joan Fontaine、George Sanders、Judith Anderson、Gladys Cooper
あらすじ:モンテカルロで、ヒロイン(ファーストネームは明かされない、Fontaine)が、崖の上に立つ大富豪マキシム・ド・ウィンター氏(Olivier)にNoと叫ぶのが2人の出会い。ヒロインはヴァン・ホパー夫人の付き人として当地に来ていた。ホパー夫人が風邪で寝込んでいる間に、2人はデートを重ねるようになる。ホパー夫人が急遽NYに帰らねばならなくなり、ヒロインはそのことをマキシムに伝えるべくホテルの部屋に行くが、そこでプロポーズされることに。そして、2人は、英国のマンダレーにある城のような邸に帰ってくる。そこには、前妻の世話役であったダンバーズ夫人をはじめとする大勢の召使い達が待っていた。ド・ウィンター夫人となったヒロインは、あまりにも違う環境に溶け込もうとするが、常に、この世のものとは思えない美しさをもっていたという前妻レベッカの影がつきまとう。マキシムにレベッカのことを尋ねても怒り出すのみ。その後、ド・ウィンター夫人は、レベッカが海岸からヨットに乗り出したが沈没し、その後40マイルも離れたところに死体が打ち上げられていたことを知らされる。<この先ネタバレ注意>
感想:深い霧の中から現れる広大な屋敷が登場する冒頭シーンからとても幻想的。その後、南仏に舞台が移り現実世界に戻るが、またマンダレーに戻ると亡霊の住む世界の様に。その切り替わりが、雨の中、車で2人が戻るシーン。ワイパーの中から城が浮き上がってくる。気づくと、ダンバース夫人が後ろにいる演出は、まるで幽霊が立っているよう。後半の意外な展開から、現実世界でのサスペンスとなっていくが、ラストのシーンは圧巻。心理的怖さと、幻想的な美しさと、ラストのどんでん返しと、何度見てもおもしろい。


・Suspicion (断崖) 1941 モノクロ
原作:フランシス・アイルズ 
出演:ケイリー・グラント/ジョーン・フォンティン/サー・セドリック・ハードウィック
あらすじ:ケイリー・グラント演じる文無しでちゃらちゃらしたプレイボーイのジョニーが列車のなかで、金持ちの箱入り娘リナ(ジョーン・フォンティン)に出会うところから始まる。ジョニーは教会拝礼に行くリナを誘い出して、キスしようと。その後、ジョニーは、また会おうといっておいて、リナに気を持たせつつも、一向にリナの前に現れず。だんだんリナはジョニーのことが気になり、とうとう、熱まで出てしまう。そこへ、ジョニーから、舞踏会でまた会おうとの電報が届く。これを見たリナは元気に。ジョニーは、舞踏会への招待状も無いのに、なんだかんだ言って入り込んでしまう。・・・ということでとうとう二人は結婚。新婚旅行は南欧へ。2人は英国に帰ってくるのだけれども、ジョニーは、新婚旅行代も、新居の費用も何も気にせずに借金しまくっている。そんなジョニーに対して、リナは仕事に就くように。しかし、競馬ばかりしているジョニーは、就職先の金まで横領してしまう。リナは、財産目当てで自分と結婚したのではないかと不安になってくる。その後、ジョニーは、親友のビッキーとともに不動産業を始めると言いだす。断崖から見下ろせる海岸線を開発するという計画。出資はビッキーが。ところが、その計画は中止になって、ビッキーは資金として集めた株式の解約のためにパリへ。ジョニーも出かけるのだが、ビッキーはパリで思いがけない事件に巻き込まれる。リナは、ますますジョニーに対する疑念が高まり、だんだんとノイローゼ?に。この後、有名なジョニーがリナのためにミルクを持って行くシーンが。<この先:ネタバレ注意>
感想:まあ、よくあそこまでケイリー・グラントはにやにや、にやけた顔ができると思う一方、後半では深刻な隠し事をしている顔も。有名なミルクを運ぶシーンは、暗い中、ケイリー・グラントが真っ暗な階段を白く光る(コントラストをつけるために豆電球を入れている。)ミルクを運んで上るというもの。でも、白黒のコントラストはついているが、結構短いので、恐怖を十分に感じる前にシーンが終わってしまいますね。結末は、少し、説明が多すぎるような。

・Shadow of a Doubt(疑惑の影) 1942 モノクロ
原作:Gordon Mcdonell
出演:Teresa Wright、Joseph Cotton、Macdonald Carey、Henry Travers
あらすじ:途方に暮れて寝転がっているチャーリー・スペンサー(Cotton)は、二人の男が訪ねてきたことを知らされる。スペンサーが部屋を出ると、すかさず、二人の男は尾行を開始するが、スペンサーは尾行者をまく。そのとき、カリフォルニアのサンタ・ローザにいる姉のエマ・ニュートンの元を訪ねることを思いつき、電報を打つ。一方、銀行勤めのジョセフ・ニュートンの家では、長女のチャーリー(Wright)が退屈しきり、叔父のチャーリーに電報を打とうと思いつく。ちょうど、チャーリー叔父さんから電報が来たことをしり、奇跡が起こったと喜ぶ。チャーリー叔父さんが、サンタ・ローザに到着し、ニュートン家は一家をあげて歓迎。チャーリー・スペンサーもニュートン家の家族のためにそれぞれ土産を持ってきた。姪のチャーリーには、エメラルドの指輪を用意していた。チャーリーは喜んで受け取るが、指輪にはBM TSとイニシャルが彫ってあったのに気づく。しかし気にせず喜んで受け取る。別の日、ニュートン家に国の調査員と称する2人の男がインタビューに来る。米国の模範的な家族の調査であると。そして、家や家族の写真を撮りまくる。スペンサーの写真も撮るが、スペンサーは写真はきらいであるとフィルムを取り上げる。その後、2人組の男の一人が、チャーリー・ニュートンを呼び出し、調査の背景を説明する。
感想:<この先ネタバレ注意>


Lifeboat (救命艇)  1944 モノクロ
原作:ジョン・スタインベック
出演:タルーラ・バンクヘッド、ウィリアム・ベンディックス、ウォルター・スレザック
あらすじ:ドイツ軍の魚雷で沈没させられた船から脱出した記者コニー・ポーター(バンクヘッド)の乗る救命艇に、コバックがたどり着く。その後も、次々に脱出して流された客や船員が救命艇にたどり着く。最後に9人目の漂流者が救命艇に手をかける。しかし、この男のことは、沈没させられた船の乗客・乗員だれも知らなかった。助けられた男は、ドイツ語でお礼を述べる。アメリカ人のコニーらは、憎きドイツ兵を助けるか・海に放り出すか、議論を始める。民主的に、ドイツ兵を助けることに。敵味方が、一つの救命艇に乗って運命共同体となる。彼らは、バミューダ方面に向かうことに。しかし方角が分からない。そこに、ドイツ兵が、バミューダの方角を教える。コニーらは、これを信じるかどうか、また議論に。方位磁石がなければ方角は分からないが、経験で、方角がわかると主張するドイツ兵をコニーらは信じることに。しかし、そのドイツ兵は、実は、方位磁石を隠し持っていた。<この先:ネタバレ注意>
感想:閉ざされた救命艇という空間のなかでの、様々な人間物語が展開され、飽きさせないように工夫されている。嵐がやってきて、水しぶきもひどいなか、食料や水も流され、そこをどう生き抜くかなど、目が離せない。大海原の中で、大自然に翻弄される救命艇ということで、おそらくスタジオの中で撮影されたのだと思うが、かなりうまく表現されていると思う。ドイツ兵が、とっても悪い人間に表現されているが、映画の製作時期を考えれば当たり前か。

・Notorious (汚名) 1946 モノクロ
出演:Cary Grant、Ingrid Bergman、Claude Rains、Louis Calhern
あらすじ:戦後、国家反逆罪で有罪となった父を持つアリシア(Bergman)は警察に監視されている中、自宅でパーティーを開き飲んだくれていた。他の客が寝こんでしまったところ、不思議な客デブリン(Grant)は、アリシアとともにドライブに出かける。酔ったまま運転するアリシアはスピード違反で白バイに捕まるが、デブリンがIDを見せると、違反切符も切らずに警官は去ってしまう。これを見たアリシアはデブリンが警察の人間だと考え騒ぎ出す。当て身を当てて黙らせたデブリンはアリシアを自宅に連れ帰る。目が覚めたアリシアは、デブリンから、愛国心と汚名を晴らすためにブラジルに飛んで仕事をして欲しいと持ちかけられる。リオに着いてから、デブリンとアリシアは互いに惹かれ合うようになる。そんな日々の中、デブリンの上司から、アリシアのミッションは、リオでナチスの残党と思われるセバスチャンらの活動をスパイすることであると告げられる。
感想:二人が恋に落ちていく流れが少し唐突だが、前半の恋愛映画から、後半のスリルあるスパイ映画への進展はなかなかおもしろい。<この先ネタバレ注意>


・The Paradine Case (パラダイン夫人の恋) 1947 モノクロ
原作:Robert Hichens
出演:Gregory Peck、Alida Valli、Ann Todd、Charles Laughton、Louis Jourdan、Leo G. Caroll
あらすじ:目が不自由な英雄パラダイン大佐の夫人マダレナ・パラダイン(Valli)がロンドンの邸宅にて夫を毒殺した容疑で逮捕される。早速、夫人は顧問弁護士サイモン卿を呼び、サイモン卿から若手敏腕弁護士トニー・キーン(Peck)を紹介される。当初、キーンの妻ゲイ(Todd)は、トニーの仕事を歓迎する。トニーは、パラダイン夫人に面会し、夫人の過去(easy virtureだった)などを聞く。そして弁護方針を、大佐の自殺説、召使いのアンドレ・ラトゥールが幇助したものとし、アンドレが管理している大佐の別荘まで出かける。そこでのアンドレは、トニーの前から消えてしまうなど不審な動きをする。何度もパラダイン夫人と面会するトニーは次第に夫人に惹かれるようになり、そして、ゲイは葛藤する。後半は、舞台が法廷に移り、パラダイン大佐毒殺の夜の出来事を、執事、アンドレなど証人と検察・トニーとのやりとりが進んでいく。
感想:ヒッチコック監督を米国に呼んだゼルズニックと組んで制作した最後の作品。とても地味な映画。恐怖ではなくて、スローなテンポのおかげで何度も気を失いかけてしまった。以前見たときもそうであったが、そのときは夜中に見たからだったと思い、今回は昼間に見たが同じだった。興味はどこにヒッチコック監督が登場するかであったが<この先ネタバレ注意>。あと、裁判長のチャールズ・ロートンの相変わらずの演技に納得。


Under Capricorn  (山羊座のもとに)  1949 テクニカラー
原案:ヘレン・シンプソン
出演:イングリッド・バーグマン、ジョセフ・コットン、マイケル・ワイルディング、マーガレット・レイトン
あらすじ:1831年、流刑地として利用されていた英国植民地オーストラリアに新しい総督が着任。その従兄弟のチャールズ・アデア(ワイルディング)は、金儲けをしようと、総督とともにオーストラリアに来る。銀行家に紹介されたのが、地元の富豪サム・フラスキー氏(コットン)。フラスキーは刑期を終えて、オーストラリアでがむしゃらに働き金持ちになった男だった。フラスキー氏から、チャールズは、王領の土地売買によるもうけ話を持ちかけられる。その際、夕食に招かれたチャールズは、総督の反対を押し切って、フラスキー氏の家を訪ねる。そこで出会ったのが、チャールズの姉の友人だったレイディ・ヘンリエッタ・フラスキー(バーグマン)だった。彼女は、パーティーの場に、裸足で酩酊状態で現れた。そして、フラスキー氏が、彼女の屋敷の馬の世話役であったことに気づく。二人は駆け落ちし、その後、フラスキー氏が、ヘンリエッタの兄殺しの罪でオーストラリアに流刑、彼女はその後を追ってきたのだった。そして、ヘンリエッタは、精神的に参ってしまって、いまや、女中を仕切っているミリー(レイトン)の助けなしでは生活できない状態になっていた。チャールズは、なんとか、ヘンリエッタを立ち直らせようと努力する。
感想:ヒッチコック監督作品で、イングリッド・バーグマンをカラーで見られる貴重な映画。衣装があでやかできれい。アル中で精神的に病んでいる女性とは思えないくらいきれいに映っている。演技で、目つきは上の空にしているが、それ以外は、そのような状態には見えない。後半で、ヘンリエッタが告白するシーンは10分以上長回しで撮影していて、バーグマンは台詞を言い続けて、演技も大変だったとか。ここが見所ということになっている。時代ものドラマということになっているが、使用人ミリーの主人サムへの歪んだ献身ぶりが、他のヒッチコック作品(レベッカなど?)と共通項になっていると思う。イングリッド・バーグマン・ファン向け作品。


・Stage Fright (舞台恐怖症) 1950 モノクロ
原作:Selwyn Jepson
出演:Jane Wyman、Marlene Dietrich、Michael Wilding、Richard Todd
あらすじ:警察から逃げるべく車を飛ばすイブ(Wyman)とジョニー(Todd)。トッドは、不倫相手の舞台女優シャーロット(Dietrich)が夫を殺害してしまったのを助けようとした結果、今度は彼が殺人容疑者として追われるハメに。その朝、シャーロットが血の付いたドレスを着て、ジョニーのもとに現れ、ジョニーに着替えのドレスを取ってくるよう迫った。そして、ジョニーがシャーロットの家に別のドレスを行き、ついでに侵入者があったように工作しているところを女中のネリーに見られてしまった。警察が、ジョニーに事情を聞こうとして現れたところを、ジョニーはシャーロットの血の付いたドレスとともに逃げ出していた。一方、シャーロットは被害者の夫人として葬儀に出席し、そして、平然と舞台もやるという悪女ぶり。イブは、ジョニーの無実をはらすべく、ジョニーを父親の家に匿い、一人シャーロットに接近しようとする。しかし、警察、新聞記者が大勢いて入り込めないことから、今度は、捜査員のスミス刑事に接近。状況を聞き出すとともに、女中のネリーにも目を付ける。
感想:これは決して結末を先に見てはいけない映画。サイコと同じ。しかし、あちらこちらにユーモラスなところもあり、2度目以降はミステリーの興味というよりも、この辺にも大いに注目すべき。イブがネリーを買収して女中としてシャーロットの家に入りこもうとするが、イブの田舎もの風に変装するシーンなど結構笑える<この先ネタバレ注意>。ここではヒッチコック監督のお決まりのグラスや影を用いた効果を恐怖ではなくユーモラスに使っている。本作は、その斬新なアイディア故に、ヒッチコック監督自身はミスを犯したとしているらしい。確かに、二度目以降見るときには、別の観点から見なければならなくなるが、リチャード・トッドの演技もなかなか印象的で良い。


・The trouble with Harry (ハリーの災難)  1955  カラー
原作:Jack Trevor Story
出演:Edmund Gwenn, John Forsythe, Mildred Natwick, Mildred Dunnock, Jerry Mathers, Royal Dano, Parker Fennelly, Barry Macolllum, Dwight Marfield, Shirley Maclaine
あらすじ:4歳児のアニーが林の中を歩いていると銃声が3発聞こえた。さらに山奥まで歩いていくと、頭から血をだして男が倒れているのを発見して家に帰る。次に、ワイル船長が、銃を持って登場。銃の穴のあるカン、禁漁区の看板を見つけ、次に倒れている男発見。ワイル船長は私がやったのかと焦る。そこに、初老のミス・グレブリーが登場。ワイル船長は必死に、ミス・グレブリーに対して事故だった、この男を埋めてしまって忘れてしまおうと言う。ミス・グレブリーも、そのことをすぐに了解して、死んでいるハリーを埋めるために隠そうとすると、こんどは、アニーとその若い母親ミセス・ロジャーズが現れる。アニーが、この人どうしているのと聞くと、ミセス・ロジャーズは深い眠りについているのよ、それよりもレモネードのみに家に帰りましょと何事もないように帰ってしまう。さらに、浮浪者はハリーの靴を持って行ってしまい、読書をしながらあるく医者はハリーで蹴躓くが、ハリーに気づかず去ってしまう。あまりに次々人が現れるので、ワイル船長は隠れたまま居眠りしてしまう。一方、麓の村では、息子が保安官助手をやっているウィギーさんの店に、売れない絵描きのマーロウ氏が現れる。マーロウ氏が店で買い物をしていると、ミス・グレブリーが登場し、お茶のカップを買う。はじめて男性をお茶に誘ったことを知ったマーロウ氏は、ミス・グレブリーの髪型を変えるのに熱心で、自分の絵に興味をもった大金持ちが話しかけるのも無視してしまう。その後、マーロウ氏は山に登り、スケッチを描き始める。と、そこに異様な足があるのに気づく。マーロウ氏は、ハリーが死んでいるのに気づき、ハリーの似顔絵を描き始める。そこに、ワイル船長が現れ、これは事故だった、無かったことにするため土に埋めたいとマーロウ氏に話しかける。当初は警察に行くべきとしていたが、最後は、ワイル船長に同意し、土の中にハリーを埋めてしまうことに。その後、ミセス・ロジャーズ、ミス・グレブリー、ワイル船長、マーロウ氏が、あれこれ考えて、そのたびに、ハリーを埋めたり、掘り返したりと、ハリーの災難は続く。
感想:とっても珍妙なブラック・コメディ。サスペンスを期待したアメリカの観客にはあまり評判が良くなかったようだが、ブラック・コメディを受け容れる文化のある欧州ではロングラン。映画界では新人のShirley Maclaineが、いきなり4歳児の母親役だったとはおどろき。とにかくケッサク。ヒッチコック監督の登場シーン<この先ネタバレ注意>はわかりにくい。







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